top of page
生命と意識と祈り

大学を2015年末に退職し、その後は遺伝子研究で世界的にも高名な故村上和雄先生(1936-2021)が所長を務められるバイオ研究所の特任研究員を拝命して、2023年3月31日まで研究活動を行っておりました。

高野山大学密教文化研究所長の時代(2012-2015)に「宗教と科学の対話」事業を新大阪と横浜で展開いたしました。理論部門として新大阪では、原子核工学・生命科学・地球物理学・生科学・宗教学・仏教学・電気材料工学・脳科学・細胞分子生物学・通信工学・光電子工学を専門とする錚々たる先生方と、21世紀の課題である「宇宙・生命・意識」を中心とした議論を重ねてまいりました。

また実証実験部門として横浜では、バイオ研究所の研究員の方々と「祈りと遺伝子」研究<真言密教の護摩行>を実施してきました。

両部門における3年間にわたる研究成果は、『密教文化研究所紀要 別冊』(20173月)と、欧米の学術誌『Human Genomics』(20178月)に公開されました。まず遺伝子(約23000個)の解析により、宗教的遺伝子(信仰者にみられる特有の遺伝子111個)を特定することになりました。

実証実験を通じて、宗教的な祈りの日々を送ってきた方<信仰者>と一般の方(祈りなどに興味のない人)との遺伝子発現の相異が鮮明になりました。併せて、祈りの場が醸し出す効果として、祈りの空間<場>にいることで、本人が意識して祈っていなくても、自然発生的に宗教的な遺伝子が発現する可能性<密教でいう加持感応>も報告されています。

2018111日には『産経新聞』に、研究成果の一端が村上先生によって公表されました。

欧米を中心として癌やダウン症など、主として難病と遺伝子に関する研究は盛んに行われていますが、祈りと遺伝子に関する研究成果は世界的にも初めてのことと思われます。

この種の研究は漸く始まりだしたばかりです。嘗て日本的霊性を提唱した鈴木大拙氏が示唆され、最近では村上先生もいわれるように「これからは科学が宗教の教えることを証明し、宗教は科学の成果を取り入れて説明する」時代へと移行していくように思います。

宗教と科学の交流については、先駆的な役割を果たされている花園大学の佐々木閑先生が『犀の角たち<科学するブッダ>』や『真理の探究』において繰り返し指摘されますように、宗教と科学間における様々な視点の相違を考慮しながら、慎重に議論し研究を進めていくべきことも視野に入れておきたいと思います。  

bottom of page